ニュース 経済

知らせたい人に知らせたい情報を届ける 災害時にも効果を発揮する音響通信技術

その他の写真を見る(1/10枚)

 音波を利用して情報を伝送する音響通信が防災システムとして注目を集めている。地震や台風、火災という非常時でも、地域の防災放送を通じて個人のスマートフォン端末に文字や音声を送信でき、言語の違いや障害の有無に関わらず幅広い人に避難情報を届けられるためだ。リコーは独自の音響通信技術を持つエヴィクサー(東京都中央区)と資本業務提携し、防災システムの開発を強化。さらに、リコーのセンシング技術を組み合わせ、エンターテインメントやビジネスなど新たな市場を開拓して普及を加速させる。

既存の放送設備から、手持ちのスマホに音声や文字を多言語で送信

 「スピーカーなど既存の放送設備や手持ちのスマホを利用することができるほか、複数の受信端末に同時にデータを配信したり、特定の端末やエリアを選んだりと情報を送る範囲を制御することができる」。リコー デジタルビジネス事業本部 センシングソリューションセンターの川瀬勉氏は、音響通信のメリットについてこう話す。

 リコーが力を入れて取り組んでいるのが、災害時に活用する仕組みの構築だ。避難時に情報を提供する場合、障がい者や外国人など、すべての人に伝わることが重要で、音響通信のメリットが最大限に活用できる分野でもあるからだ。

 例えば、地震や台風、大雨などの災害の時、外国人への情報提供手段として、ネット上の通訳や翻訳などいろいろなサービスが立ち上がっているが、携帯電話の回線や、Wi-Fiなど公衆通信インフラを利用するものが多い。その場合、通信回線が途絶したり、通信制限により遅延が発生するリスクがある。

 川瀬氏は「非常時には、テレビやラジオなど公的な情報を伝える手段は頼りになる。ただ、こうしたメディアは広域の情報を流すことはできても、現場の状況に応じて、そのエリアにとって重要な情報を発信することは難しい。音響通信はこうした状況で効果を発揮し、適切な情報を必要としている人に多くの言語で伝えることができる」と話す。

リコー デジタルビジネス事業本部 センシングソリューションセンター ソリューション開発グループ リーダーの川瀬勉氏
リコー デジタルビジネス事業本部 センシングソリューションセンター ソリューション開発グループ リーダーの川瀬勉氏
その他の写真を見る(2/10枚)

 しかも、屋内では施設内の消防法に基づいた放送設備を、屋外では地域にある防災放送設備、ドローンや広報車、拡声器など既存のインフラを使うので、導入コストが低く抑えられるのも特徴だ。避難する人たちが持っているスマホなどの端末に多言語文字や音声で情報を届けられるほか、電源喪失や屋外で設備がない状態にも対応でき、災害のリスクを低減することも可能になる。

逗子海岸で津波の避難訓練の場で実証実験

 すでに非常時の情報伝達手段としての活用に向けた実証実験が行われている。2019年7月20日には、神奈川県の逗子海岸で、逗子市の防災安全課と協力し、津波避難訓練の活用に関する実証実験を実施した。逗子市全域で震度7の地震が観測され、気象庁が相模湾に大津波警報を発表し、緊急避難を呼びかけているという想定で行われた。

 大津波警報発令の行政防災無線放送とともに、海水浴客は海から上がり、逃げ遅れておぼれている人の救助などの訓練に併せ、リコーは、エヴィクサーと共同で、行政防災無線放送に音響通信技術を用いた信号を埋め込み発信。それをスマホのアプリで受信することで、放送の音声を日本語・英語でのテキストに変換するほか、詳細なハザードマップ(避難地図)が表示できる仕組みを実験した。

逗子市の実証実験の様子
逗子市の実証実験の様子
その他の写真を見る(3/10枚)

 20年2月には、神奈川県、寒川町、他の協力企業とともに、昨年の大型台風災害とインフラの被害を想定し、ドローンからのアナウンスと音響通信による避難指示、避難場所の伝達を、行政や自治会関係者の参加のもとに避難体験会として実施した。放送を文字や画像、地図で見られることに80%の参加者から肯定的意見を得られたという。

寒川町で実施された避難体験会の様子
寒川町で実施された避難体験会の様子
その他の写真を見る(4/10枚)
ドローンからの音響通信で避難を指示
ドローンからの音響通信で避難を指示
その他の写真を見る(5/10枚)

 18年には総務省の「競技会場におけるICT利活用に関する実証」事業に採択され、味の素スタジアム(東京都調布市)や武蔵野の森総合スポーツプラザ(同)で外国人や障碍者を含むモニター計400人を対象に実証実験が行われた。携帯電話や無線LANによる通信が使えない状態、または停電の状態においても、非常放送や、施設内の音波ビーコン(無線標識)からスマホに音波を送って個人の位置情報を把握する手法を用いて、観客、選手、スタッフに適切な経路で避難を促す仕組みを検証した。

避難誘導実証実験の様子
避難誘導実証実験の様子
その他の写真を見る(6/10枚)

 川瀬氏は「実証実験の結果、いくつかの改良が必要な点は見つかったものの、緊急地震速報、大津波警報、ハザードマップの提供など、テキスト、画像、地図による複合的な情報を多言語で伝達できる音響通信技術が防災無線において活用できることがわかった。2度の実験で、屋内、屋外での通信不能状況においても、音響通信技術を用いた情報提供ができることが検証できた」と話す。

イベント会場でID検知し、ロボットがプレゼン

 このように、音響通信は、放送機器や音波ビーコンなどから、個人の端末に情報を伝達する手段として、非常に簡便でかつ適用範囲が広い。その一方で、エコーや残響音、環境ノイズの影響をできるだけ抑える必要がある。しかも、スマホは、アプリのインストール・起動が必要になるので、エンターテインメントやビジネスなど日ごろから利用してもらうことが重要になる。

 リコーでは、イベント企画会社や展示施設を運営している事業者向けにロボットとスマホアプリで展示物を説明するシステムの展開を始めた。川瀬氏は「ロボットがプレゼンをすることで、省人化によるコスト削減と、話題づくりによる集客力の向上という一石二鳥が期待できる」と話す。

 このシステムはイベント会場内の音波ビーコンやデジタルサイネージから、音波に識別情報(ID)を埋め込み発信。来場者のスマホやロボットがマイクで音をキャッチし、IDを検出し、受信したIDに応じたアクションを実行する仕組みだ。

音響通信による機器制御イメージ
音響通信による機器制御イメージ
その他の写真を見る(7/10枚)

 リコーの音響通信ソリューションを構成するシステムには、低コストで使い勝手の良いアプリにするために、さまざまな技術的な工夫が加えられている。例えば、リコーが開発した音波ビーコンは、人には聞こえにくい超音波(18k~20kHz)に、IDなどのデータを埋め込んでスピーカー部から発信する。指向性の高い超音波を利用することで、場所を確実に把握することができる。また、音波ビーコンは専用の無線通信にも対応しており、システムの稼働を継続的にチェックする死活監視や遠隔制御を行うことができる。

 一方、放送設備では警報音など耳に聞こえる可聴音の周波数帯域内で音響通信を行う必要がある。このため非常時の警報音であるメッセージとシグナルの特長を生かし、0.5秒以下とごく短時間のブザー音にメッセージと紐づいたIDを埋め込む可聴音透かし(10kHz以下)を採用し、音声と音響通信の双方からコミュニケーションを可能にした。

音響通信の導入イメージ
音響通信の導入イメージ
その他の写真を見る(8/10枚)

明治座のインバウンド向け公演でも披露

 また、この可聴音透かしは、さまざまな拡声器やラジオなどの機器にも対応。電源がない屋外でも拡声器(メガホン)と、可聴音透かし対応アプリを搭載したスマホなどで情報発信が可能だ。

 情報を受信するパーソナルデバイスは、放送に乗せた可聴音・非可聴音によるIDを個人のスマホのマイクで受信し、その場の状況に対応したIDを受信した来訪者に求める行動を文字や音声、施設の地図上での図示により伝達するアプリを制作。任意の場所とタイミングで文字や多言語音声で関連情報を画面表示したり、音声出力する。

 17年には、明治座、シャープ、エヴィクサーと共同で、日本で初めて人の耳には聞こえない透かし音(非可聴音)を用いたコミュニケ―ションロボットによる外国語ガイドサービスを訪日外国人観光客(インバウンド)向けに披露した。

 このサービスは、明治座インバウンド向け公演「SAKURA-JAPAN IN THE BOX-」を観劇するために訪れた訪日客に対して、シャープのコミュニケ―ションロボットRoBoHoN(以下ロボホン)が外国語で公演内容や明治座の歴史、館内で販売されるお土産や館内設備を案内した。

明治座で実施した外国語ガイドサービス
明治座で実施した外国語ガイドサービス
その他の写真を見る(9/10枚)

 館内に設置されたブースでは公演のプロモーションビデオに同期してロボホンがプレゼンテーションを行ったほか、随所に配置された音波ビーコンから発せられる非可聴音をロボホンが取得することにより、位置を高精度に測位。来場者がロボホンを持って館内を歩けば、場所に合わせて、ロボホンが店舗や設備などの説明を披露した。

ロボット俳優のミュージカルやプロ野球の新しい応援にも

 音響通信技術をエンターテインメントに活用するアイデアは、多くの機会で試されているという。ロボットやマスコットキャラクターなど何台でも同時に制御できる特徴を活用し、「音響通信で、ロボットがチームで踊るミュージカルを披露するようなオファーも増えている」(リコーテクノロジーズ 第二設計本部 新規開発室の淺井章弘氏)という。

音波ビーコンについて説明するリコーテクノロジーズの淺井章弘氏
音波ビーコンについて説明するリコーテクノロジーズの淺井章弘氏
その他の写真を見る(10/10枚)

 複数台のスマホに同時に情報を送ることができる技術を生かし、プロ野球の応援など、スタジアムでファンが一緒に楽しめるイベントに活用する取り組みも検討しているという。「新型コロナウイルスの感染拡大への懸念から、プロ野球のラッキーセブン(7回の攻撃)の風船を飛ばす応援がやりにくくなったが、その代わりになるような、手持ちのスマホを使ってファンが一体となって楽しめるイベントができるといい」(川瀬氏)

 そのほか、博物館や劇場、イベント施設など、活躍の場は広がる。こうした場面では、エンターテインメント性の発揮はもちろん、緊急時・非常時には、それぞれの端末のモニターなどに災害発生のお知らせや避難指示などの情報を伝えることができる。

 淺井氏は「音響通信を広く普及させていくには、例えば、音波ビーコンなど情報の送り手側の機能を必要なものに絞るなど、さらなる低価格化を推し進めていく必要がある」と話す。川瀬氏も「リコーが提供しているデジタルサイネージなどとの連携を深め、グループの提案力を結集し、さらに他社ともコラボして音響通信の普及を進めていきたい。」と意欲を示している。

※肩書は取材当時(2020年2月)のものです。

災害時も音響通信による情報発信で安心・安全を提供

津波避難訓練における音響通信ICTの活用に関する実証実験を実施

総務省「競技会場におけるICT利活用に関する実証」事業の報告書を公表~スマホアプリと音響通信による平常時や災害時の情報提供の有効性を検証~

ドローン前提社会の実現に向けたモデル事業を採択!(第1弾)

人々の「はたらく」をご支援するリコーの取り組みについてはこちらから

提供:株式会社リコー

ランキング