スポーツ スポーツ

【ゴールボール】“レジェンド”小宮選手躍動5点 浦田選手の守備光る

 視覚障害者のパラスポーツ、ゴールボールの大会「天皇陛下御即位記念2019ジャパンパラゴールボール競技大会」が9月28、29日、千葉市の幕張メッセで開催された。日本A(主力チーム、世界ランキング4位)、日本B、ブラジル(同3位)、米国(同5位)、の4チームが参加。参加した選手は、来年の東京パラリンピックを意識しながら、静まりかえった会場で、わずかな音を頼りに熱戦を繰り広げた。

準優勝し、銀メダルを掲げる日本Aチームの5人。左から、天摩由貴選手、高橋利恵子選手、小宮正江選手、若杉遥選手、欠端瑛子選手
準優勝し、銀メダルを掲げる日本Aチームの5人。左から、天摩由貴選手、高橋利恵子選手、小宮正江選手、若杉遥選手、欠端瑛子選手
その他の写真を見る(1/9枚)

 1日目と2日目の午前までで総当たりのリーグ戦を行った。上位2チームの日本Aと米国は決勝を、ブラジルと日本Bが3位決定戦を戦った。日本Aは米国に1-2で敗れ、準優勝。3位はブラジル、4位は日本Bの結果となった。

 2012年ロンドン・パラリンピックの金メダル獲得時のメンバーである“レジェンド”小宮正江選手(44、アソウ・ヒューマニーセンター)は2日間でチーム最多の5点をマーク。今回は日本Bとして出場した浦田理恵選手(42、シーズアスリート)も「守りの要」センターとして、安定感のある守備で存在感を示した。

 日本Bに関しては、当初は中国が参加する予定だったが、手続きの遅れにより参加できず、急遽日本から2チーム目が選出された経緯があった。

静寂の中、音を頼りに球を投げ合う

 ゴールボールは視覚障害者向けの球技で、パラリンピックの正式種目。両チームがボールを転がすように投げ合い、前後半各12分でゴールした数を競う。

 ボールはバスケットボールほどの大きさで、内部に鈴が2つ入っている。選手は鈴の音を頼りにボールの位置を特定する。重さはバスケットボールのほぼ倍となる1.25kg、表面が硬いことも特徴だ。

 大会に先駆けて行われた公開練習で、米国人選手のシュートが外れ、コート外に転がり出た。近くにいた記者が両手で受け止めた際、強い衝撃を感じて思わずボールを弾いてしまった。試合では、選手らは体を横に倒すようにして全身でゴールを守るが、ボールの衝撃は見た目以上に大きい。

 コートには1チームにつき、完全に目が見えない状態の3選手が出場。障害の程度によってプレーに差が出ないよう、目の上にアイパッチを貼り、その上からアイシェードと呼ばれるゴーグルを着用し視覚情報を完全に遮断する。試合中は自軍の選手の声や足音、ラインのテープの下に張られた糸の位置などを頼りにプレーする。コートは、6人制バレーボールと同じ18メートル×9メートルで、両端にコートと同じ幅の9メートル×高さ1.3メートルのゴールがある。

 高くバウンドさせた球は捕球しにくいため、シュートは自軍ゴールから6メートル以内の自陣で1回、自陣と敵陣の間にある、同じく6メートルの「ニュートラルエリア」でもう1回バウンドさせるのがルール。どちらかのエリアにボールが接地しなかった場合、反則となり、ペナルティースローを相手に与える。ペナルティースローでは、反則したチームはたった一人しか守備に入れない状態で、相手に投球機会を与える。このため、勝敗の行方を左右するほど重要な場面となる。世界選手権上位の各チームは守備力が高く、ロースコアゲームが多いため、ペナルティースローの影響はことさら大きい。

1人でボールを止めるのは至難の業
1人でボールを止めるのは至難の業
その他の写真を見る(2/9枚)

米の鉄壁守備崩し4点奪取

 予選で日本Aは、日本Bに引き分けるも、米国とブラジルを下して堂々1位で通過した。なかでも予選2日目には、前日ブラジルと日本Bを相手に1点も許さなかった鉄壁の守備を誇る米国と対戦し、4点を奪う活躍を見せた。小宮選手はこのうち3点を決め、往年の攻撃力が健在であることを見せつけた。体格で勝る米国人選手のつま先を狙った見事なボールコントロールで、得点を重ね会場を沸かせた。試合前の合宿では、ボールコントロールに力を入れていたという。

シュートを放つ小宮正江選手
シュートを放つ小宮正江選手
その他の写真を見る(3/9枚)

 続いて迎えた決勝戦、日本は次代を担うセンターの高橋利恵子選手(21、筑波大学)、レフトには、力強い投球が持ち味の若手エース・欠端瑛子選手(26、セガサミーホールディングス)、ライトにベテラン小宮選手の布陣で臨んだ。

 一方、米国は前日から目覚ましい活躍を続けるエース、Amanda Dennis選手がセンターを守る。守備の要とされるポジションに居ながら、Amanda選手は速いモーションで多くのシュートを繰り出した。チームとしては左右のウイングを頻繁に入れ替えながら、力強くて多彩な攻撃を繰り出すことが特徴だ。

力強いシュートを放つ米国のAmanda Dennis選手
力強いシュートを放つ米国のAmanda Dennis選手
その他の写真を見る(4/9枚)

 前半は0-0で終えた。後半、米国に先制点を奪われるも、後半から出場の若手ウイング、若杉遥選手(24、綜合警備保障)が1点を返し、同点。その後、米国のLisa Czechowski選手に2点目を奪われ、1-2で米国の優勝が決まった。

 試合中、日本は複数のプレーヤーが同時にシュートモーションに入ることで、ボールの出所を知らせないフェイント攻撃を何度も仕掛けた。米国のJacob William Czechowskiヘッドコーチは、これを「他の国にない独特な攻撃を仕掛けるチーム」と評した。

2人がシュートフォームを作ることでボールの出所をわかりにくくするフェイント攻撃
2人がシュートフォームを作ることでボールの出所をわかりにくくするフェイント攻撃
その他の写真を見る(5/9枚)

 決勝戦を終えて、小宮選手は「ゴールボールを知ってもらうためには結果が大事。決勝戦で悔しい思いをしたので、来年の舞台では、もっと得点を取れるよう、課題に取り組みたい」と振り返り、「多くのお客さんに入っていただいて、応援してもらったなかで(本番と同じ会場の)音の響きを体験できて感謝している」と述べた。

後半崩され大量得点献上

 決勝戦の直前に行われた3位決定戦で、日本Bチームはブラジルに0-3で敗北を喫した。

 前半は互いに譲らず0-0で終えた。後半開始直後、日本は、ゲームタイマー停止時以外にベンチから指示を出した場合に取られる反則、イリーガルコーチングでチームペナルティーを取られブラジルチームにペナルティースローを献上。1点を許すと、そこから1分以内の間に立て続けに2点を奪われ、0-3と水をあけられてしまった。

 ここで、日本はセンターを浦田選手に交代。守備の活躍はわかりにくい側面があるが、この日の浦田選手は違った。相手の強力なスローを受けても大きくボールを弾かずに保持。相手の得点をピタリと止める守備力を披露した。

体を張ってボールを止める浦田理恵選手
体を張ってボールを止める浦田理恵選手
その他の写真を見る(6/9枚)

 攻撃面では、18歳の萩原紀佳選手が果敢に攻めるも、ブラジルの固い守備の前に後一歩及ばず、涙をのむ結果となった。

 試合後、浦田選手は「悔しい結果となりましたが、チームとして、これまでやってきた戦術を試すなかで成果を得ることができた」と振り返った。

試合後、ブラジルと交流する日本Bの浦田理恵選手(中央)ら
試合後、ブラジルと交流する日本Bの浦田理恵選手(中央)ら
その他の写真を見る(7/9枚)

国ごとに異なるシュート術

 シュートの際、日本の各選手は体を1回転させながら、遠心力も利用しつつ、強力な一投を放つ。ボールに遠心力がかかることで、中に入っている鈴の音を抑えてボールの場所をわかりにくくする効果にも期待ができるという。

 一方、ブラジルは相手に背を向けて助走を付け、ジャンプして勢いよく両手で股の下から放つシュートが特徴的だ。全身をばねのように使って跳ねることで、強烈な勢いをボールに伝える。このシュートを放つのはブラジルのみで、国内の選手は子供の頃から盲学校のチームなどでこのシュート方法を指導されるという。

股の下からシュートを放つブラジル人選手
股の下からシュートを放つブラジル人選手
その他の写真を見る(8/9枚)

直前までメンバー吟味

 世界レベルと比べたときに、攻撃力に課題を持つ日本は、主力Aチームの5人を、センター1人、ウイング4人の構成にした。

 パラリンピック本番で、ベンチ登録できる選手は6人まで。さまざまな強みを持つ選手から選抜する6人の構成は、メダル獲得への肝となる。試合前、「(この大会が自分の進退にとって)正念場であると思っています」と話していた浦田選手は、見事に強みをアピールして、市川喬一ヘッドコーチに「来年の遠征には浦田を帯同することを、今、決めました」と言わしめた。市川コーチは「本大会でセンターを1枚にするか2枚にするか、まだ決めかねている」と頭を悩ます。

 今大会は、東京パラリンピックと同じ会場で行われており、テストイベントという側面もあった。会場は本大会と同じ幕張メッセのイベントホール。各国チームの参加には、スポーツに適した新素材の床材、タラフレックスの感触や本番会場の音の響き方を確かめる意図もあった。

試合のタイマーが動く直前に、毎回「静かにしてください」と英語のアナウンスが入る
試合のタイマーが動く直前に、毎回「静かにしてください」と英語のアナウンスが入る
その他の写真を見る(9/9枚)

 2日間の観客数は合計4636人。ゴールボールは、静寂の中で音を頼りにボールを追うため、静かな観戦が求められる。今大会、試合の実況と解説は入り口で配布したラジオを通じて行った。会場内には静寂が保たれながらも、観客には解説が届き、状況が分かりやすくなる仕組みだ。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森泰夫大会運営局次長は「この試みがうまくいけば、本番でも使用する可能性が高い」と話した。(フジテレビ)

ランキング