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【車いすラグビー】チーム一丸で勝ち取った銅 「あと一漕ぎ」が勝敗分ける

 ラグビーW杯日本大会の期間中の10月16~20日に東京体育館(東京都渋谷区)で行われた、もう一つのラグビー大会「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」で日本は3位の結果で大会を終えた。障害の程度で分けられたクラス別最優秀選手賞には、乗松聖矢選手(29、クラス1.5)と主将の池透暢選手(ゆきのぶ、39、クラス3.0)が選ばれた。

トライライン前で競り合う池透暢主将(右)
トライライン前で競り合う池透暢主将(右)
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 大会には、世界の強豪国8カ国が参加。日本(今大会開始時の世界ランキング2位)・英国(同4位)・フランス(同6位)・ブラジル(同10位)と、オーストラリア(同1位)・米国(同3位)・カナダ(同5位)・ニュージーランド(同9位)の2組に分かれて、16~18日に予選リーグ、19日に各組上位2チームの準決勝へと進み、20日には決勝と3位決定戦を行った。

 優勝は米国、準優勝はオーストラリアだった。

タックルでブラジル人選手の動きを止める乗松聖矢選手(右)
タックルでブラジル人選手の動きを止める乗松聖矢選手(右)
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※選手名に続くカッコ内は(年齢、所属クラス)の順で紹介。以降も同様。後半にルール解説あり。

宿敵オーストラリアに惜敗

 日本は昨年8月の世界選手権で格上だった米国と、パラ五輪で2連覇(ロンドン・リオ)中のオーストラリアを撃破し初優勝。初めて世界の頂点に立った。

 今回もオーストラリアが最大の壁。9月に行われたアジアオセアニア選手権では、決勝で敗れた宿敵だ。

 予選でブラジル、フランス、英国の3カ国を下し、全勝で通過しながらも、大会4日目に準決勝でオーストラリアに接戦の末、56-57と1点差で惜敗した。

ベンチの声が選手の力に

 最終日の3位決定戦、予選で下した英国と再び対戦した日本は、コート上の選手だけでなく、ベンチサイドも一丸となり勝利をもぎ取った。

 日本と英国は両チームの力が拮抗しており、互いに点差を付けられない展開が続くなか、ローポインター(障害が重い選手)のチーム最年長、岸光太郎選手(48、クラス0.5)が相手のハイポインター(障害が軽い選手)の動きをがっちり止めるファインプレーで、自軍ハイポインターの活路を開くとチームが勢いづき、点差を徐々に突き離していった。岸選手は、試合を通して「(車いすの)あと一漕ぎが多く漕げるかが、勝敗を分けた」と振り返った。

ミドルポインターのフランス人選手をマークする岸光太郎選手(左)
ミドルポインターのフランス人選手をマークする岸光太郎選手(左)
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 疲れが出てくる時間帯で、池選手が相手のハイポインターの選手に抜き去られてしまう場面があった。「やられたな、抜かれた」と思った池選手が、次のオフェンスに備えようとしたとき、ベンチから「ハードワーク!」という声が池選手の耳に届いた。池選手は、その声で反射的に自ゴール前のキーエリアまで全力で戻った。

 守備位置に戻っていた乗松選手が相手エース、ジム・ロバーツ選手にタックルを仕掛けた。こぼれたボールに走り込んできた池選手が飛び込み、攻守が入れ替わるターンオーバーへとつながった。池選手は「『ハードワーク』の言葉がきっかけで取れた、チーム全員で取ったターンオーバー」とプレーを振り返る。

 このプレーで勢いを加速させた日本は、リードを保ち、54-49の5点差で勝利した。

3位「悔しい」

 3位決定戦を終えた池選手は「チームの力が明らかに上がってきた。選手達が自分の殻を破って、チームに貢献しようという気持ちを持っていた。自分の力をコートに届けようという気持ちで全員が一つになることができた。この大会を通じて、結束を培えた」と話した。

 一方、チームは今大会の金メダル獲得を目標に準備を進めてきた。3位という結果に満足はしていない。エース・池崎大輔選手(41、クラス3.0)は「みんな悔しさしか残っていない。各選手、自分に何が足りないかを考えていると思う」とチームの気持ちを代弁した。

トライライン前で競り合う池崎大輔選手(左)
トライライン前で競り合う池崎大輔選手(左)
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 日本代表のケビン・オアーヘッドコーチは、負けてしまった準決勝のオーストラリア戦を「日本はチャンスをものにしきれなかった。最初から最後まで、同じペースで戦うことができなかったことが敗因」と振り返った。今後の課題として、「ローポインターの選手の成長と控え選手の底上げ」を挙げた。

ベンチから激励するケビン・オアーヘッドコーチ(左)と今井友明選手
ベンチから激励するケビン・オアーヘッドコーチ(左)と今井友明選手
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 2017年1月のケビンヘッドコーチ就任時から、ローポインターも積極的に得点するなど、日本代表のプレースタイルは変化してきた。

 来年のパラリンピックを前に、各選手、チームとしても、金メダル獲得のための課題を見つめ直す機会を得た大会となった。

光る若手のプレー

 予選第1回戦のブラジル戦では、高校2年生の橋本勝也選手(17、クラス3.0)がチーム最多得点の18点をマーク。持ち前のスピードを生かし、日本代表としての初舞台で存在感を見せつけた。

初戦のブラジル戦でトライへ向かう橋本勝也選手
初戦のブラジル戦でトライへ向かう橋本勝也選手
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 ローポインター同士の熾烈なレギュラー争いもある。岸選手とポジションを奪い合うのは、若手の長谷川勇基選手(27、クラス0.5)だ。

 コンビで出場することの多かった若山英史選手(34、クラス1.0)と今井友明選手(36、クラス1.0)も、大会を通じて相手チームのハイポインターの動きを封じる活躍を見せた。

3万5700人来場

 5日間の入場者数は、パラスポーツとしては記録的な3万5700人が来場した。

 東京パラリンピックを来年に控え、パラスポーツへの関心も高まっている。都内の公立学校で観戦申込みした80校約1万4000人の児童、生徒らが大会を観戦した。

 今大会の実況、DJケチャップさんがエース池崎大輔選手のトライ時に「池崎~?」と問いかけるように名前をコールすると、すかさず「だいすけ~!」と子供たちの大きなコールが会場に巻き起こった。

 池崎選手は、試合中の名前コールは選手の耳に届いているといい、「名前を呼ばれると、やっぱりうれしいっすね」と照れくさそうに話した。ホームならではの力強い応援に、多くの選手が「心強かった」「うれしかった」と力づけられた。

なじみやすい大会名に

 「車いすラグビー」は、以前「ウィルチェアーラグビー」との名称で呼ばれていたが、今年の4月から名称を変更した。変更に奔走した日本車いすラグビー連盟の佐藤裕広報委員会理事は「わかりやすい名称が多くの人に広がってくれたら」と期待を込めた。

車いすラグビーとは

▼車いすラグビーは、原則として下肢に障害を持つ車いすバスケの選手と違い、四肢まひ者らもプレーできる。

▼コートはバスケットボールと同じ広さで、コートの両端のエンドライン上にはトライラインがある。ボールを保持した選手の車いすの2つの車輪が、トライラインに乗るか通過すれば1点が入る。

▼コート上に入る選手は各チーム4人。障害の程度によって各選手が持ち点を持つ。持ち点は、障害が重い0.5から3.5まで、0.5刻みずつ7段階のクラスに分かれている。持ち点0.5~1.5の選手はローポインター、2.0~2.5の選手はミドルポインター、3.0~3.5の選手はハイポインターと呼ばれ、それぞれコート上での役割が異なる。障害の重い選手にも出場機会が与えられるよう、コート上の4人の持ち点合計が8点以下となるように調整する。1チームは最大12人で編成され、試合中の選手交代は自由。

▼男女混合で行われることが特徴で、女子選手が出場する場合は、ハンディとして、1人の参加に付きチームの持ち点合計に0.5点の追加が許される。女子選手が1人参加した場合、合計点は8.5点となる。

▼車いすは、相手の動きを止めるためにバンパーが突き出ているローポインター用の守備型と、細かい動きや素早いターン可能にする、ハイポインター向けのコンパクトな攻撃型の2種類がある。

▼試合時間は1ピリオド8分の4ピリオド制。ラグビーの楕円球とは異なり、バレーボールに似た専用球を使用する。

▼オフェンス側は、ボールを持ってから12秒以内にセンターラインを越えねばならず、40秒以内にトライしなければならない。ボールを持った選手は、10秒以内にドリブルかパスをする。間に合わなかった場合は、ボール所有権が相手チームに移る。

▼トライラインの前には、進入を制限する「キーエリア」がある。攻撃側は10秒間しかこのなかにとどまれない。一方、守備側は同時に3人までしかこのエリアに入れない。4人が並んでしまうと、相手選手のトライライン通過を妨げることが容易になってしまうため。

▼自分の車いすを他の選手の車いすに当てる「タックル」が認められている。試合中に車いす同士がぶつかり合うと、打ち上げ花火のような「ドーン」という音がする。ただし、相手の車いすの後輪の車軸よりも後ろに当たる危険なタックルは禁止。エース・池崎選手は、相手がパスを放つ直前にタックルを仕掛け、パスミスを誘う。このプレーのタイミングの取り方が絶妙。

タックルを仕掛ける池透暢選手(中央)
タックルを仕掛ける池透暢選手(中央)
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▼健常者ラグビーとの大きな違いは、前方へのパスができること。日本の主将・池選手と池崎選手のイケイケコンビは、得点を奪われた直後、池選手の正確な前方へのロングパスを世界トップクラスのスピードを誇る池崎選手が相手のマークを振り切ってキャッチ、そのままトライを決める速攻を得意としている。

▼攻撃側が有利な競技で、パスカットなどでボールを奪ったときに攻守が交代となるターンオーバーの回数が勝敗に直結する。1ミスが勝敗につながるため、世界ランキング上位国は、ほぼミスのない試合運びを見せる。(フジテレビ)

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