独裁政権崩壊…現在は強権復活 エジプト大規模デモから10年
【カイロ=佐藤貴生】2011年1月に中東・北アフリカで始まった反政府活動「アラブの春」で、エジプトのムバラク政権を退陣に追い込んだ大規模デモの開始から25日で10年となる。ムバラク独裁政権は11年2月に崩壊したが、その後の選挙でイスラム勢力が政権を握って軍や世俗勢力と権力闘争を展開。政治や社会の混乱収拾を名目に現大統領のシーシー氏と軍が政権を強制排除し、軍主導の強権統治に回帰した。
エジプトでは11年1月25日、インターネットなどを通じて呼びかけられた大規模デモが各地で始まった。デモは連日続き、30年続いたムバラク政権は同年2月11日に倒れた。
翌12年の大統領選では、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシー氏が勝利。軍出身者が歴代大統領を占める同国でイスラム勢力の出身者が政権を握ったのは初めてだった。
しかし、イスラム色がにじむモルシー氏の政策に軍や世俗派などが反発、再び反政権の大規模デモが行われる事態に発展した。シーシー国防相は13年夏、軍を率いてモルシー氏を拘束し、憲法を停止して政権を崩壊させた。軍出身のシーシー氏は14年の選挙で勝利して以来、大統領として反体制派の弾圧を進める。
11年のデモに加わったのを機に政治活動を始めた首都カイロ近郊ギザの女性、アイドロスさん(40)は「デモの現場ではエジプト人として誇りを感じたが、民主化は実現しなかった」と無念さを語った。
エジプトは今年初め、新型コロナウイルス感染拡大阻止のために各種規制が強化された。経済低迷が続き、市民は厳しい暮らしを強いられている。
カイロ在住の会社員の男性(63)は「とても疲れる10年だった。物価がどんどん上がり、言いたいことも自由に言えない。しかし、暮らしが安定していればそれでいい。同じような思いは二度としたくない」と振り返った。
アラブの春のデモでは11年1月中旬にチュニジアで政権が崩壊。エジプトのムバラク政権に続いて同年8月にはリビア、11月にはイエメンで政権が倒れた。